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「ドライ真空ポンプ」とは?種類や導入メリットを専門家が解説!

この記事では、ドライ真空ポンプについて詳しく解説します。すでにドライ真空ポンプを使っているユーザー様から、これからドライ真空ポンプを使おうと考えている方まで、幅広く活用いただける内容になっています。

この記事を読むことで、ドライ真空ポンプの特徴、原理、種類がわかります。また、ドライ真空ポンプのメンテナンスやトラブル事例、耐食性など、実用時に注意すべき内容も解説します。

「ドライ真空ポンプの導入を考えているけれど、どの方式を選べばいいのか分からない」という方にとって、特に有益な情報を盛り込んでいます。

「ドライ真空ポンプの必要性や基礎知識をまとめて知りたい」

「ドライ真空ポンプの種類ごとのメリットや活用事例を知りたい」

「ドライ真空ポンプのトラブル事例について知りたい」

このような方は、ぜひ最後まで読んでみてください。

ドライ真空ポンプとは?

まず真空ポンプとは、真空環境を作るために、空気を吸い出すためのポンプです。産業界においては、真空環境を作りたいというニーズはさまざまな分野で存在します。 たとえば、半導体の製造工程では、エッチングという工程があります。シリコンウエハと呼ばれるICチップの原材料に回路パターンを化学的に加工する工程です。この工程は、真空環境が必要となり、真空ポンプが活躍することになります。

ドライ真空ポンプは、空気を吸い出すための機構に油や液体を使用しません。このため、水や油が真空中に拡散することがなく、クリーン度の高い真空が得られます。また、水や油の補充や交換などの定期メンテナンスが不要で、取り扱いが容易なポンプです。半導体製造工程、FPD・LED・太陽電池製造工程など、多くの真空が必要な工程で必要とされています。

ドライ真空ポンプの1段式2段式の違い

ドライ真空ポンプには、1段式と2段式があります。1段式と2段式の大きな違いは、ポンプ室のつなぎ方です。1段式では、ポンプ室を並列につないでおり、2つのポンプ室を並列につなぐことで排気量を増やしています。到達圧力が高く、排気速度が大きいのが1段式の特徴です。 一方、2段式はポンプ室を直列に2組つないでいます。ポンプを直列につなぐことで圧縮比を大きくし、高真空を得られるようにしています。ポンプ1台分の排気となるため、排気速度は小さいですが、到達圧力が低いのが2段式ポンプのメリットです。

到達圧力(到達真空度)

到達真空度とは、「絶対真空にどれだけ近づけるか」を示す性能指標です。パスカル(Pa)で表し、数値が小さいほど絶対真空に近く性能の高いポンプだということになります。

排気速度

排気速度とは「どれだけ速く真空状態にできるか」というものであり、数値が大きいほど真空に到達するまでのスピードが速くなります。単位はL/minで表され、排気系の特定箇所を流れる気体の単位時間当たりの流量となります。

大気ー真空の繰り返し排気を頻繁にするような装置は、排気速度の数値が大きいと真空引き(装置の中を真空にすること)する時間を少なくできます。

ドライ真空ポンプロータリーポンプの違い

ドライ真空ポンプは、前述したように空気を排出するポンプ部に油・液体を使用しません。

一方、ロータリーポンプとは「油回転真空ポンプ」とも呼ばれています。ロータリーポンプは、真空ポンプ油(オイル)を使用しています。オイルによって、回転部の動きをなめらかにし、真空部と大気部の間の機密性を高めることができます。

ロータリーポンプは排気性能が高く、大気圧から高真空領域まで作動できるポンプの中では最も効率が良いというメリットがあります。一方、使い続けることでオイルが変色・減少するため、定期的にオイルを交換しなければならないというデメリットがあります。

事例:ポンプ載せ替えケース③

事例:ポンプ載せ替えケース④

ドライ真空ポンプの特長

ドライ真空ポンプは、オイルフリーであることから、次のような特長があります。

オイルフリーのメリット

クリーンな真空

真空引き時に油や液体が接触することがないため、真空側に水や油が拡散することがなく、クリーンな真空が得られます。

大気圧から到達圧力までの広範囲で使用可能

ドライ真空ポンプは大気圧から低真空(102Pa~105Pa)~中真空(102Pa~10-1Pa)あたりまでの広範囲の圧力範囲で使用可能です。

最小限の定期メンテナンス

ドライ真空ポンプは、水や油の補充や交換などのメンテナンスが不要です。このため、メンテナンスフリーが要求される環境では必要性の高いポンプといえます。

オイルフリーのデメリット

一方、オイルフリーによることで次のようなデメリットもあります。

・同じ容積の油回転真空ポンプと比較して導入費や運転費が高くつく

・作動時の音が大きい

・発熱が比較的大きく、型式によっては冷却水が必要

・溶剤等の凝縮性があるガスを吸引した場合、故障がしやすい

真空環境を作る場合に、静粛性が要求される・導入費を抑えたいという場合は、本当にドライ真空ポンプがベストなのかを検討する必要があります。

ドライ真空ポンプの排気原理

ドライ真空ポンプは、ポンプの排気構造によってさまざまなタイプがあります。ここでは、各種ドライ真空ポンプの排気原理、メリット、主な用途について解説します。

スクロール型ドライ真空ポンプ

スクロール型ドライ真空ポンプは、主に2つの渦巻型の部品(スクロール)で構成されています。2つのスクロールが相対的に揺動(みそすり)運動すると、2つのスクロールに閉じ込められた機体が中心部に向かい、中心部の穴から排気されるという原理になっています。

スクロール型ドライ真空ポンプのメリット

スクロール型ドライ真空ポンプは、ポンプの駆動トルクの変動が小さいことによって、振動・騒音が小さいというメリットがあります。

主な用途・使用される産業

真空乾燥装置、理化学分析装置、真空熱処理炉などで使用されています。

多段ルーツ型ドライ真空ポンプ

多段ルーツ型ドライ真空ポンプは、ケーシングに2つのロータが入っており、互いに反対方向に同じ速度で回転します。その回転により、気体を2つのロータの回転軸の内側に引き寄せ、排気する原理となっています。

ロータの断面は、8の字形状もしくは三つ葉形状となっており、気体を効率よく排気する形状となっています。

ルーツ型ドライ真空ポンプのメリット

ロータが同軸上にいくつも重なって(多段して)存在することによって、排気速度が高いというメリットがあります。

主な用途・使用される産業

ルーツ型は半導体製造や製薬プロセス、分析・計測機器などで使用されています。

ダイアフラム型ドライ真空ポンプ

ダイアフラム(変形可能な薄い膜)の往復運動を利用して排気を行う真空ポンプです。偏心軸が回転することによって、ダイアフラムが往復運動し、吸気口から排気口へ気体を動かすという原理になっています。ダイアフラムの材料には、合成ゴダイアフラムやテフロンなどが用いられています。

ダイアフラム型ドライ真空ポンプのメリット

ダイアフラム型は機構がシンプルで、低価格で導入がしやすいです。また、排気構造において摺動部がないため、運転時の発熱が低いというメリットもあります。

主な用途・使用される産業

ICのウエハ吸着装置、真空チャック、真空ピンセット、真空排気などで使用されています。ダイアフラムの上下運動は比較的ストロークが浅く、気体の移動量に限界があるため、比較的排気量の小さい用途が多いです。

揺動ピストン型ドライ真空ポンプ

偏心回転軸に連動するピストンの往復運動により気体を排気するタイプの真空ポンプです。

回転軸に偏心カムとピストンが取り付けられ、回転軸が回ることでカムが回転します。それによってピストンがシリンダ内を上下運動し、これによって吸気・排気を繰り返します。

排気原理はダイアフラム型と似ていますが、両者はすみ分けができています。揺動ピストン型はピストンのストロークを大きくすることができるため、比較的排気速度を大きくすることができます。ダイヤフラダイアフラムトロークが比較的小さいため、排気量が少ないですが、比較的静かという特長があります。

揺動ピストン型ドライ真空ポンプのメリット

揺動ピストン型は簡単な構造かつ高い排気速度を実現しているのがメリットです。

主な用途・使用される産業

揺動ピストン型は製造業や食品加工など、幅広い分野で使用されています。

事例:ポンプ載せ替えケース②

回転翼型ドライ真空ポンプ

回転翼型ドライ真空ポンプは、シリンダ、ロータ、ベーンで構成されています。ベーン(Vane)は直訳すると羽根という意味になりますが、これがロータの周りに付いており水車のような形状となります。ロータが回転することでベーンがシリンダと接触しながらシリンダ内の気体を排気する原理となっています。

回転翼型ドライ真空ポンプのメリット

回転翼型は低真空領域で大きな排気速度が得られることがメリットです。

主な用途・使用される産業

回転翼型は実験や医療機器など、小規模な製造プロセスで使用されています。また、吸着・搬送機械の真空源として、食品機械業界、包装機械業界、半導体業界など多様な業界で使用されています。

クロー型ドライ真空ポンプ

クロー型ドライ真空ポンプは、ケーシングに2つのロータが入っており、互いに反対方向に同じ速度で回転します。ロータの形状は爪(クロー)状であり、この形状によりクロー間に吸引した気体を捕捉し、圧縮、排気を行います。

クロー型ドライ真空ポンプの排気原理は多段ルーツ型と似ています。しかし、「廃棄時に気体を圧縮するかしないか」が両者の差となります。

多段ルーツ型では、ふたつのロータの間に閉じ込められた気体の体積は吸気口から排気口まで一定(気体は圧縮されない)ですが、クロー型では吸気口から排気口に向かうにあたって気体が圧縮されます。これは、クロー型のロータが独特な爪型形状にあることに起因しています。この特徴により、高圧域における圧縮費はルーツ型よりも高くなっています。

参考URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jvsj1958/43/5/43_5_557/_pdf

クロー型ドライ真空ポンプのメリット

クロー型ドライ真空ポンプは気体を圧縮して排気するという性質により、消費電力が少なく、省エネ性に優れています。

主な用途・使用される産業

クロー型は蒸気滅菌、プラスチック成形、印刷、医療システム、空気輸送システムなど、さまざまな産業で使用されています。

スクリュー型ドライ真空ポンプ

スクリュー型ドライ真空ポンプは、並行する2つのスクリューロータとケーシングで構成されています。スクリューロータは同じ速度、かつ互いに反対の回転方向に回ることで、ケーシングの気体を排気口に送る原理となっています。

スクリューロータの形状はねじのような形ですが、この形状は角ねじ形、スパイラキシャル形、リショルム形といくつかの形状があります。

スクリュー型ドライ真空ポンプのメリット

スクリュー型は大気圧から到達圧力まで連続運転が可能であること、往復型の真空ポンプ(ダイヤフラム型や揺動ピストン型)と比較すると低振動であることがメリットです。

主な用途・使用される産業

スクリュー型は半導体製造装置のエアー排気用途、真空乾燥用途などに使用されています。

ターボ分子ポンプ

ターボ分子ポンプは、多数の回転翼で構成されています。回転翼が高速で回転することで、気体分子を叩き、運動量を与えます。その運動量によって、気体が排気口に送り込まれて排気される原理となっています。

ターボ分子ポンプのメリット

ターボ分子ポンプは非常に高い真空度を実現できるのがメリットです。これまで紹介したタイプのドライ真空ポンプは、大気圧~10-1Paの範囲での稼働を前提としていました。ターボ分子ポンプは102Pa~10-8Paの範囲で稼働可能です。

ターボ分子ポンプは大気圧からの排気には向いていません。そのため、他のタイプの真空ポンプと組み合わせて使い、高真空を実現します。

主な用途・使用される産業

ターボ分子ポンプは研究機関や製造プロセスでの高度な真空要求がある場面で利用されています。

ドライ真空ポンプのメンテナンス

ドライ真空ポンプのメンテナンス頻度は低く、製品にもよりますがおおむね数年間はメンテナンスフリーで稼働できます。

具体的なメンテナンス頻度は、機種や使用状況によって異なります。詳しくはドライ真空ポンプを購入したメーカーや販売店・代理店に問い合わせるのが確実です。

これまで紹介したドライ真空ポンプのタイプでは、スクロール型、揺動ピストン型、回転翼型は摺動部品の交換が必要となります。

・スクロール型:渦巻形状の部品の接触部

・揺動ピストン型:ピストンとケーシング間のシール

・回転翼型:ベーン

これらの部品は摩耗し、メンテナンスの対象となります。

また、それ以外のタイプのドライ真空ポンプでも、ペーパーエレメントの交換、ギヤオイル(※)の交換、定期オーバーホールといったメンテナンス項目があります。

※ギヤオイルは、ポンプとは隔離されたモータ側にあるので、ギヤオイルが真空側に露出することはありません。

ドライ真空ポンプのトラブル事例

ドライ真空ポンプは扱いやすい製品ですが、機械である以上、使い方や長期間の使用によってトラブルは発生することはあります。

ドライ真空ポンプのよくあるトラブル事例として、次のような項目があります。

起動しない

電源が故障している、駆動源であるモータが故障している、駆動ギヤの潤滑油が切れている、などの可能性があります。これらの部品の異常の有無をまずはチェックしてみましょう。

モータ部の故障かどうかを判定するには、モータをドライ真空ポンプから取り外し、モータのみで運転するのがひとつの方法です。

排気圧が上がらない

排気口に正しく排気されず、どこかで気体が漏れている可能性があります。配管やシール部分などを確認してみましょう。

ダイアフラム型の場合は、ダイアフラムの破損の有無も確認してみましょう。

排気時間がかかる

吸気口フィルタにゴミが詰まると、吸気量が少なくなり、排気時間が長くなる要因になります。フィルタの清掃、交換を検討しましょう。

ポンプがロックした

ポンプ内にごみが入り、回転部の中にごみが詰まってロックした可能性があります。吸気口のフィルタが機能しているか確認しましょう。また、ごみでロックしたことが原因であれば、回転部を分解し、ごみを取り除きましょう。

また、ポンプ停止後、排気した気体が逆流することでポンプが逆回転し、その結果回転部が破損するという事例もあります。

たとえば、ターボ分子ポンプと補助ポンプを組み合わせて排気する場合、補助ポンプから逆流が発生するケースが考えられます。ターボ分子ポンプと補助ポンプの間に逆流防止用のバルブ(フォアバルブ)を設置し、補助ポンプが停止する前にフォアバルブを閉じるようにしましょう。

異常音がする

ベアリングやタイミングギヤなど、駆動部の異常が考えられます。異常音がする場所を突き止め、当該箇所の状況を確認してみましょう。

異常発熱がする

ポンプに異常な負荷がかかっている可能性があります。ポンプの負荷状況を確認してみましょう。また、水冷式の場合は冷却水のトラブルも考えられます。冷却水が流れているか、冷却水の量は適切かチェックが必要です。

ドライ真空ポンプの耐食性

真空雰囲気内で腐食性ガスが発生するなど、ドライ真空ポンプの稼働状況によってはポンプの耐食性を気にする必要があります。

たとえば、半導体製造プロセスの一部であるドライエッチング工程では、耐食性を考慮する必要があります。ドライエッチング工程において、フッ素系、臭素系、塩素系等のガスが発生し、これらは水分と反応して強酸となり、強い腐食性を示します。

参考URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/tsj1973/23/11/23_11_657/_pdf

上記のケースでは、ガス吸気~排気経路に耐食処理を施した腐食性ガス対応のドライ真空ポンプを選定する必要があります。

また、ダイアフラム型は、ダイアフラムの素材によって耐食性が決まります。吸引するガスの種類を考慮しましょう。たとえば、濃硫酸ガスを吸引する場合は、ダイアフラムはNBR製は避け、フッ素ゴム製を使うようにします。

ドライ真空ポンプの大型と小型を比較

ドライ真空ポンプには様々なサイズがあり、大型と小型では適用される環境や使用目的が異なります。大型ポンプは産業用途での大量のガス処理に適しており、小型ポンプは実験室や医療機器での細かな作業に向いています。用途に合った機種を選定しましょう。

おわり

この記事を書いた人

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Yuusuke Itou

三弘エマテック代表取締役社長 伊藤裕介  日本真空技術株式会社(現 株式会社アルバック)で、半導体装置の制御SE、Heリークディテクタ・真空ポンプ各種の技術担当を経験後、1998年に三弘アルバック(現 三弘エマテック株式会社)に入社。営業経験を経て、代表取締役に就任。 「真空技術の未知なる可能性を見いだし、未来に新たな価値を提供する」ことを目指して会社経営奮闘中。

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